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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(あ)3965号 判決 1957年3月28日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人宇田川好敏の上告趣意第一点は、刑訴三九〇条をもって憲法三一条に違反するものとなし、刑訴三九〇条に従い被告人を出頭せしめることなく公判期日を開いて審理を行い判決を言い渡したことをもって違憲であると主張するのである。しかし、最高裁判所の裁判権については、違憲審査を必要とする刑事、民事、行政事件が終審としてその事物管轄に属すべきことは憲法上要請されているが、その他の刑事、民事、行政事件の裁判権及び審級制度については、憲法は法律の適当に定めるところに一任したものと解すべきことは大法廷判決の判示しているところである(判例集二巻七号九二二頁)。また裁判所の組織・権限等については、すべて法律において諸般の事情を勘案して決定すべき立法政策の問題であることも大法廷判決の判示するところである(判例集四巻二号八八頁)。そして現行刑訴法の下においては、控訴審は事後審であって覆審ではない。控訴審の公判期日における審理は、刑訴三八八条、三八九条の弁論に限られるのが原則であるから、被告人が公判期日に出頭することは無用な場合が多いのである。それで刑訴三九〇条は、控訴審においては、被告人の公判期日における出頭がその権利保護上重要と認められる場合以外は、その出頭を被告人の義務としなかったのである。しかし、公判期日の指定は被告人に通知せられるのであり、被告人の出頭の権利は失われるわけではない。同条が憲法三一条に違反するものでないことは、前記大法廷判決及び昭和三一年七月一八日大法廷判決(判例集一〇巻七号一一四七頁)の趣旨に徴し明らかであるということができる。それ故、論旨は採ることをえない。

同第二点は大審院判例違反をいうが、所論引用の大正一三年一一月二八日の大審院判決は、その後昭和七年四月二八日の大審院判決によって改められ、上告裁判所は上告を棄却する場合においても、上告審における未決勾留日数を本刑に算入する言渡をなしうるものとした(集一一巻五三〇頁)。当裁判所もこれを踏襲している(判例集二巻四号三三六頁)。それ故、論旨は適法な上告理由に当らない。

被告人の上告趣意は、違憲をいう点もあるが、単なる訴訟法違反、事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであって、適法な上告理由に当らない。

よって刑訴四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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